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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)2164号 判決 1985年12月12日

原告

テ・ピ・ラムスデン

右訴訟代理人弁護士

細田直宏

被告

東京三洋電機株式会社

右代表者代表取締役

井植薫

右訴訟代理人弁護士

田中紘三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、イギリス国エセックスにおいて、株式、社債等の国際投資を主とするグループの代表であり、被告会社の株式五〇万株を有する株主である。

2  不法行為の存在

(一) 被告会社は、昭和六〇年二月八日付で、原告に対して、被告会社本社において、第四一回定時株主総会を開催する旨の通知をした。

そこで、

(1) 原告は、右株主総会開催に先立つて、同年一月二八日付で、被告会社に対し、株主として、書面で次のような質問をした。

① 貴社は、すでに五〇〇〇万米ドル、利率年一一・五パーセント、満期日は一九八七年六月二二日の株式引受権付社債を発行された。

何故かかる危険かつ高価な借金をされるのですか。

② 貴社は、資産の割合からみて多額の負債を負つています。さらに何故一億米ドル保証付債券を発行されようとしているのですか。

貴社は株主に公正な投資機会を与えずに株価をうすめていくのですか。

右原告の質問に対して被告会社は、財務部部長吉田允男(以下「訴外吉田」という)の名義において、同年二月四日付の回答を次のような文書で原告あて送つてきた。

① 五〇〇〇万ドル、一一・五パーセントの株式引受権付社債については、元本と利子との双方について長期の外国為替変動について先物契約を締結したことにより実際の利子は五パーセントとなるので、危険であるとも高くついているとも考えられません。

② 一億ドルの株式引受権付社債の件は、何も検討されておらず公やけにしてもいません。

(2) 原告の調べによると、右回答には疑義があつたので、原告は、やむなく被告会社株主総会に出席して、疑義の点を株主として確かめざるを得ず、同月二二日深夜、遠路イギリスより私有のジェット機(乗組員六名)にて来日した。

原告は、同月二五日、弁護士細田直宏(以下「細田」という)、通訳田丸博文と共に、株式総会場へ赴いたところ、総会受付において、細田は、訴外吉田より、原告の代理人としての入場を拒絶された。

原告は、右訴外吉田より拒絶の理由を明確に説明されないまま、とりあえず総会場に接近した社員食堂において、細田らと共に開会を待つていたが、その食堂には、会社員とは到底考えられない人々が二〇名ほど待機して、何やらわからぬ関西なまりで大声で私語を交しており、原告は、その場所にいることに畏怖の念を生じた。

また、総会場に入つてからも、出席株主は一〇八名ということであつたが、すでに議長席の前方三〇席ほどは、会社員らしからぬ人々によつて占拠されていて、当初、原告には座る場所もなかつた。

(3) 株主総会において、原告は、右(1)記載と同様の内容の質問をしたが、被告会社の回答は次のとおりであつた。

① 五〇〇〇万ドルの株式引受権付社債については、シティ・バンク東京店との間において、元本、利子の支払について五年間の契約がなされており、一米ドルが一八七円になるようになつている。

② 一億ドルの新株引受権付社債を近い将来、早くとも本四半期来四半期に発行する意思は毛頭なく、新株を増加するような意図はない。

原告は、通訳を介して右回答を知り得たが、その後、充分な質疑応答の機会を得られず、議案はすべて異議なしという拍手のままに、またたく間に総会は終了した。

(二) 右(一)(1)ないし(3)記載の被告の行為は、以下の理由により、原告の株主権そしてこれに内包される人格権を侵害する不法行為に当たる。

(1) 右(一)(1)及び(3)記載の原告の質問に対する被告の回答は、いずれも虚偽であり、会社の株主に対する説明義務にも違反するものである。

すなわち、被告会社が五〇〇〇万ドルの株式引受権付社債についての五年間の為替予約契約を締結して、一米ドルが一八七円になるようになつている事実はない。

さらに、一億ドルの新株引受権付社債発行計画があるにもかかわらず発行する意思は毛頭ないと申述し、新株を増加することすなわち借金を増やすことは考えていないと述べているが、事実に反している。

(2) 右(一)(1)ないし(3)記載のように、被告が原告に対してとつた態度は、株式、社債を含めて、被告会社に対する持分一〇分の一を有する大株主に対する対応として、著しく不相当なものであり、これにより原告は、屈辱、恐怖を受けた。

すなわち、原告は、右記載のとおりの大株主であるにもかかわらず、(一)(1)記載のように、その質問に対する回答は、被告会社の代表権なき一部長である訴外吉田によつて行われた。

また、原告は外国人であり、日本語も総会のルールも解さないのであるから、代理人の同席が必要であるにもかかわらず、右訴外吉田の判断によつて、被告は原告代理人細田の入場を拒否した。なお、原告の認識したところによれば、現に総会にはおよそ株主らしからぬ二〜三〇名の人々が出席しており、その他の態度も含めて、被告会社の総会の運営は、著しく不当である。

3  訴外吉田は、被告会社の従業員であり、2記載の右吉田の各行為は、被告会社の業務の執行につき行われたものである。

4  損害

原告は、被告(又は訴外吉田)の2記載の不法行為により、次のとおりの損害を被つた。

株主総会出席に要した往復費用 金五〇〇〇万円

精神的苦痛による損害 金五〇〇〇万円

株価の稀薄化による損害 金五〇〇〇万円

合計金 一億五〇〇〇万円

よつて、原告は、被告に対し、前記の不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金一億五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年四月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち原告が被告会社の株主であることは否認し、その余は不知。

2  同2(一)前段の事実は否認する。被告は、昭和六〇年二月二五日第四一回定時株主総会を開催したが、原告は、同株主総会において議決権を行使できる株主(昭和五九年一一月三〇日最終の株主名簿に記載された株主)ではないので、原告に対し、開催通知は発していない。

同2(一)(1)の事実は、否認する。株主としての原告から質問を受け、それに対し回答をしたことはない。

同2(一)(2)の事実は不知。ただし、昭和六〇年二月二五日細田が被告会社まで来たことは認める。

同2(一)(3)の事実は、否認する。

同2(二)の事実は、いずれも否認する。

3  同3の事実は否認する。ただし、訴外吉田が被告会社の従業員であることは争わない。

4  同4の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

本訴請求は、いずれも、被告会社が原告の株主権を不法に侵害したことをその原因とするものであるところ、原告が被告会社の株主であることを認めるに足る証拠はなく、かえつて、原告代理人は、当裁判所に対し、昭和六〇年九月三日付書面で、ティ・アール・インターナショナルコンサルタントサービス会社の代理人として、本件訴えの前提となる被告会社の株主たる地位は、右会社がこれを有するのであつて、テ・ピ・ラムスデン個人には属しないとして、原告を右会社に変更する旨の申立てをしていること(なお、右の変更は任意的当事者変更に当たるから、右申立が許されないことは明らかである)、その他弁論の全趣旨からすれば、本件原告(テ・ピ・ラムスデン)は被告会社の株主たる地位を有しないことは明らかといわなければならない。

よつて、本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥山興悦 裁判官市村陽典 裁判官菅野雅之)

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